今回の「よっそう日記」は、大好評だった「悪戦苦闘中」に続き
茶碗亭はくまいの渾身の一筆 「天使に捧げるバラード」です。
私、未だに病んでおります。
不本意ながら、杖の使い方も上達し、今では道でころびそうになることも
エスカレーターで腕が首吊り状態になることもなくなり、杖は私の身体の
一部と化してしまいました。
この数ヶ月の間に、病院も変わり私の天使であった美人の先生とも
別れ別れになってしまいました。
その日 診察室に入った私に天使がこう仰るのです。
「この病気の専門家の先生がS病院にいらっしゃいます。
紹介状を書きますので、そちらの病院へ行ってみませんか。」
予想もしていなかった言葉に、「嫌だ、僕は先生と一緒にこの病気を
克服していきたいんだ」と心の中で大声で叫んでいました。
自分の心の葛藤を見透かされまいと、上目がちに見上げた私の瞳に
飛び込んできたのは「天使のまなざし」でした
そのまなざしは、間違いなく私にこう語りかけていました。
「私もあなたと一緒にこの病いに立ち向かって行きたい。でも今の私では
力不足なの・・・、私もあなたと別れるのは辛い。
今は病気を治すのが最優先、どうか聞き分けて、お願い!」
こうして私は天使と別れ、S病院に通うようになりました。
そしてそこで待っていた私の主治医は、病院ドラマのシナリオには
欠かせない鬼のように怖そうな老医師でした。
この老医師は、机の上のPCをいじりながら、パネルに私の足の
レンドゲン写真を張り、説明をして下さいます。
「この部分の足の骨が異常な訳ですね。」と説明をしながら、
PCを操作されるのですが、時々「何だこれ、全然ダメじゃないか。」とか
「使いもんにならん。」などと独り言を仰るのです。
その度に、私のか弱い心臓はドキットして、三年は寿命が縮まるのではと
いう気分になります。
そばに控える助手の様な先生が、いつものことなのか
「先生、違いますよ。ここをクリックするんですよ。」と教えています。
悪いのは、PCなのか頑固なまでのアナログ至上主義のせいなのか、
老医師の覚束ない手元に思わず声を大にして叫びたくなりました。
「先生、先生の偉大さはよくわかります。先生の説明もよくわかります。
でも、PCの腕だけはもう少し上げて下さい。でないと足が治る前に
私の寿命が尽きてしまいます。」
こうした経緯の中、S病院での私の治療が始まりました。
まずは、血液検査、その結果をよく見もしないで、老医師は断定的に言います。
「この病気はだいたい肝臓からくるんですよ。」
今度は検査結果を横目に見ながら、意外そうな顔で「あれ、肝臓は正常ですね。」
この瞬間、私は勝ち誇ったように「やった!」と思いました。
そして、人生最高の友である「お酒」としばし別れを告げ、
この数ヶ月間、人知れず寂しい想いをしてきたことを老医師に切々を訴えかけました。
私の話を聞き終わった時、思いがけず、老医師はその瞳の奥に笑みを湛えて、
私にこう語り出しました。
「今のところ、経過は良好の様だから、このまま様子を見ましょう。
もうそんなにちょくちょく来ることはないですよ。
そうだね、次は2ケ月後でいいですよ。
途中で挫折する人が多い中、強い意志でよくがんばりましたね。
このまま摂生は続けた方がいいですね。
その分 何か楽しみを見つけたらどうですか。
私なんか、最近PCを触るのが楽しくなりましてね。」
「ありがとうございます・・・・・。」私は嬉しい反面、複雑な気持ちで
こう答えました。
病院を出て帰りの電車の中で、幸せ一杯の私はこう呟きます。
「天使よ、我々は勝ったよ。我々の努力は報われたんだ。
今日は祝杯じゃあー。あなたはいないけど、とにかく祝杯じゃあー。」
誰に何に勝ったかはよ私にもよくわかりません。
でも、とりあえず今日は祝杯なのです。
自宅のそばの酒屋へ寄った私は、ビールでいっぱいになったビニール袋を
引きずる様にして、家路に急ぐのでありました。
ここだけの話、翌日 足に痛みが走りました・・・・。 ああー反省。
茶碗亭 はくまい